犬でよく起こる慢性消化器疾患と内視鏡の適応について

慢性腸症割合

 

慢性腸症とは?

慢性腸症の定義

慢性腸症は以下のように定義されています。

  • 3週間以上の慢性消化器症状が存在すること
  • 慢性腸症以外の疾患が除外されていること
  • 病理組織学的に腸粘膜で炎症が認められること
  • 対症療法での治療反応が認められないこと

 

慢性腸症は原因・治療反応によって

食事反応性腸症抗菌薬反応性腸症免疫抑制剤反応性腸症に分類されます。

慢性腸症の多くは食事反応性腸症ですが、

リンパ腫と病態が酷似している免疫抑制剤反応性腸症は診断及び治療が厄介なことが多いです。

 

食事反応性腸

食事に反応する慢性腸症のことです。慢性腸症の65%を占めており、若齢犬の慢性腸症はほとんどが食事反応性腸症といわれています。

食事は

  • 加水分解食
  • 新奇蛋白食

を用いて治療を行います。

 

抗菌薬反応性腸症

抗菌薬に反応する慢性腸症のことです。慢性腸症の11%を占めており発症率は低いですが、若齢犬の特に大型犬で発症します。

  • タイロシン
  • フラジール

といった抗菌薬に反応し、数日で下痢などの消化器症状が落ち着きます。

 

免疫抑制剤反応性腸症

食事にも抗菌薬にも反応しない慢性腸症で、ステロイドなどの免疫抑制剤に反応します。

症状が重篤であることが多く、中高齢の犬で発症することが多いです。慢性腸症の22%を占めています。

基本的にはステロイドを初期用量として1〜2mg/kgで使用しますが、その他のお薬として

・ブデソニド(腸の局所に作用するステロイド)

・クロラムブシル

を使用することがあります。

 

リンパ腫について

消化器型リンパ腫は胃・十二指腸・空腸・回腸・結腸に発生します。

数年前には、日本でM・ダックスフンドの消化器型リンパ腫が急増していましたが、最近では減ってきています。

症状は、

・慢性的な嘔吐・下痢

・メレナ(黒色便)

・食欲不振

・体重減少

といった症状があります。

 

犬の消化器型リンパ腫を分類すると、

・大細胞性胃腸管型リンパ腫

・小細胞性胃腸管型リンパ腫

・結直腸リンパ腫

多中心型リンパ腫が消化管へ転移したもの

に分類されます。

 

大細胞性胃腸管型リンパ腫

予後が非常に悪く、化学療法(抗がん剤)を行なったとしても、生存期間中央値が73日であると言われています。

化学療法が効きにくい大細胞性胃腸管型リンパ腫ですが、外科手術と化学療法を併用した場合、長期間の生存(1年以上の生存)が認められたケースもあります。

小細胞性胃腸管型リンパ腫

大細胞性と比べると予後は良い消化器型リンパ腫です。

ただし、犬の慢性腸炎と症状が重複するので、鑑別が非常に困難です。

化学療法を行なった症例の生存期間中央値は、424日であったと言われています。

ただし、小細胞性と診断されたのちに、大細胞性リンパ腫が発生してしまう確率が、12%もあると言われておりますので、慎重に経過を観察する必要があります。

結直腸リンパ腫

結直腸に発生する、比較的予後が良いリンパ腫です。

外科切除と化学療法を併用することで生存期間中央値は1697日になると報告されています。

標準治療は定められていませんが、外科切除を行った後、化学療法を行うことが現段階でベストな治療法と考えられています。

 

内視鏡を実施するタイミングについて

内視鏡を実施するタイミングについて

内視鏡は慢性腸症以外の疾患を除外した後に、食事療法・抗菌薬による治療を行っても治療反応が認められない場合に実施します。

ですが、

  • リンパ腫などの腫瘍が疑われ画像診断でも診断ができない場合
  • 症例の状態が急を要する場合

は内視鏡を即座に実施することもあります。